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岡沢亮 contact: boiledend0320[@]gmail.com http://researchmap.jp/ryookazawa

KoSAC 卒論修論フォーラム(2015/3/21予定) 告知補助ページ

口頭発表

報告者:岡沢亮(東京大学大学院学際情報学府)

評者:森功次(日本学術振興会森 功次 - 研究者 - researchmap

松永伸司(東京藝術大学松永 伸司 - 研究者 - researchmap

 

修士論文題目

人々の実践としての芸術/非芸術の区別――法・倫理・批評領域に焦点を当てて

 

■目次

0 はじめに
1 先行研究の検討と本研究の方針
2 裁判における芸術/非芸術の区別――作品のわいせつ性が争われた判決を事例として

3 美術館展示の倫理をめぐる論争における芸術/非芸術の区別――森美術館問題を事例として

4 芸術批評における芸術/非芸術の区別――「パーフェクト・モーメント」展周辺期のメイプルソープ作品の批評を事例として

5 おわりに

■本論文の課題

 本論文の課題は、法(作品のわいせつ性が争われた裁判)・倫理(美術館における作品展示の倫理が問題となった論争)・批評(社会的事件の周辺期の芸術批評)領域に焦点を当て、そこで人々が行っている個別具体的な対象に関する芸術/非芸術の区別実践を、それぞれの事例に即して解明することです。

 この課題を達成するために、本論文は以下の2つの問いを設定しました。

 

Q1 人々はいかにして芸術/非芸術の区別を行っているか

Q2 その区別を行うことは、人々にとっていかなる意味を持っているか

 

 なお、本論文は美学や社会学の先行研究の検討を踏まえたうえで、Q1に答えるために、人々が行う「能力帰属」(特定の種類の人物に芸術/非芸術の区別能力を帰属させる)と「理由づけ」(特定の理由を用いて、芸術である/ないという判断を正当化する)に着目し、Q2に答えるために、その区別がなされる活動・場面・文脈に着目するという方針を立てました。

 

■課題への答え

 上記の課題・問いに対しては、以下の答えを与えました。

 Q1への答え

 A1-1 芸術専門家への「能力帰属」や、非芸術の専門家への「能力帰属」という方法を用いて、芸術/非芸術の区別を行っている。

 法領域では、美術評論家や写真集編集者といった芸術専門家に区別能力を帰属させることが行われていた。それに対して倫理領域では、性暴力や人権侵害の問題に携わってきたいわば「非芸術」の専門家に区別能力を帰属させることが行われていた。

 

 A1-2 作品の性質のみならず、作品への反応や社会状況など様々な資源を用いて、作品が芸術である/ないと「理由づけ」る形で、芸術/非芸術の区別を行っている。

 倫理領域では、作品と美術館に対する抗議という「作品への反応」から作品が芸術だと理由づけるアクターと、表現の批判性のなさという「作品の性質(の欠如)」から作品が非芸術だと理由づけるアクターのあいだで対立が起こっていた。

 批評領域では、既存の芸術史では美的とされてこなかった対象の美しさが作品において捉えられていることと、「社会状況」の変化から、作品が芸術であると理由づけられていた。

 

 Q2への答え

 A2 法領域では、作品の問題が解消されているかどうかを判断する手続きとしての意味を持っていた。倫理領域では、差別性が指摘される作品を展示することに伴う責任を免れるかどうかを判断する手続きとしての意味を持っていた。批評領域では、(専門家のみならず)一般の人々に作品の価値を理解してもらうという芸術専門家の使命を果たす活動として意味づけられていた。

 ただし、それぞれの領域において、芸術/非芸術の区別実践がそのような意味を持つか否かということ自体が、人々にとっての争点となっていた。

 

■研究の意義

 本論文の意義は、「美学や芸術(哲)学において扱われてきた問題が、社会における人々の実践においていかにして問題になり、またいかにして解決されるのかを明らかにする」という芸術社会学の一つの研究方針を示したことにあると考えています。

 また、「ある対象が芸術か否か」がいかなる場合にいかなる意味で問題になるのか、また問題になった場合にはいかなる解決法がありうるのか、を例示した点において、今後も生じるだろう社会における「芸術」作品のあり方をめぐる議論を整理していく際の参照点の一つになりうるでしょう。

 *なお、芸術/非芸術を区別するという人々の実践のあり方について本論文で得られた知見が、芸術の定義を明らかにしようとする美学者たちの試みに対しても、何らかの貢献を行うものになっていればよいと思っています。

 

■研究の動機

 もともと分析美学における芸術の定義論と社会学におけるエスノメソドロジーに関心があり、かつ双方に関心を持っている人は非常に少ないように見えました。そのため、両者を参考にしながら研究を進めると何か新しい知見を得られるのではないかと漠然と考えていました。

 また「ある対象が芸術か否か」という多くの場面において多くの人々にとって「どうでもよい」問題が、まさに特定の場面において特定の人々にとって重要な問題となるという事態の複雑さに着目しようと考えました。