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Anyone to Turn to

岡沢亮 contact: boiledend0320[@]gmail.com http://researchmap.jp/ryookazawa

鎌倉の珊瑚礁でカレーを食べた日に

かすかに肌寒い春の朝に目が覚める。ヤンゴンのうだるような暑さ、憂鬱な雨、そして極めて脆弱な回線を通じて、一通のメールが送られてきたことを知る。小説が添付されている。群像劇のそれぞれのパートが秩序立ちかつ理不尽な因果によってつながり、書かれていない物語の過去や未来を想起させる素晴らしいものだった。私がシャーウッド・アンダーソンだったら大変に悔しがっていただろう。読み終えると横浜の窓を雨が叩く。

しばしば願っている。彼は私が読んだことのあるなかで、最も優れた文章の書き手だ。そのせいか、ここ何年間か多くの人が文章を発表する場にいて「あの人は文章が上手い」とか「小説のようだ」「文学的だ」などという評価を時折聞くものの、これらの評価に同意できたことはほとんどない。このような同意のできなさが、私の偏屈さだけに由来しているわけではないことを願っている。「この人の言う小説とか文学って何のことだろう」と懲りずに考えてしまうくらいには、まだ小説やら文学やらに好意的なのだろうし、これからもそうありたいと思う。彼が世に出ることを、あるいは、世が彼を出すくらいにはまっとうであることを願っている。

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風と日差しの強い春の朝に目が覚める。ニューヨークの乾燥した空気、強烈な寒さ、そしてスピーディな回線を通じて、FaceTimeが始まる。私は中国語の発音がほとんど分からない。よくある名字を発音するときにも口や舌に神経を集中させなくてはならない。「日本語話してても使わないところを使うから、骨格も変わってくるよ」と言われ、ウェス・アンダーソンみたいになると好ましいと願っている。私は教えられるがままに「wo shi da baichi」とたどたどしく発音し、彼女とそのルームメイトに笑われる。笑われているのは発音だけではなくその内容でもあると教えてくれる。

コネがなければカネを払うことすらできない。人口の管理を任せられた行政機関の知人にコンタクトをとり、そいつに袖の下を渡さなければ、2人目の子供を登録することはできない。いくつかの例外がある。第1子が知的障害である場合というのも、そのひとつらしい。彼女は父親から「役人が万が一きたら、そういうふりをしなさい」と言いつけられていた。幸か不幸か、練習の成果を見せるチャンスは訪れなかったようだ。彼女の弟は、両親から勉強しなさいと言われても何もせず、来る日も来る日も何時間も椅子に座っていたという。