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岡沢亮 contact: boiledend0320[@]gmail.com http://researchmap.jp/ryookazawa

『Call Me by Your Name』

『Call Me by Your Name(邦題:君の名前で僕を呼んで)』

映画開始二分後には、たとえこの後に続く物語がどんなに凡庸で退屈なものであったとしても、自分はこの画面をずっと観続けているだろうと確信させられる。ひとつひとつのカット、そこに映される街並、水面、自動車、太陽は素晴らしく美しい。俳優たちが完璧に煙草を吸う姿を目の当たりにし、世界中の凡百の映画で用いられている煙草を全て奪い取って彼らに献上しようと決意する。

世の中には、これならば完全な素人である自分が映画を撮っても必ずや面白くなるはずだと感じるような見事な脚本や、書き手はその一生を伏線の回収に費やそうとしているのかと思わせるような複雑な脚本がある。本作はそうではない。あるいは、小説(本作も原作は小説だという)や演劇や詩やCMなどの形式の方が良かったのではないかと感じる映画もあるが、本作はそうではない。物語の内容も十分に優れているかもしれないが、それでもやはり、映画という形式を選択することの意義と必然性に満ちている。

ラストシーン、表情が克明に映される人物の背後で、いつもの通り食卓が準備され食器の音が聴こえてくる演出の、なぜ自分が思いつかなかったのかと悔しく思う一方で、人生を何度繰り返しても頭の片隅にも浮かばないのだろうなと諦めもつくような、非凡さ。

 

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